東京・虎ノ門、長澤印店
首相官邸からもほど近い虎ノ門交差点から外堀通りを新橋方向に3軒目。
残念ながら現在はすでに廃業していますが、遠く昭和の時代、そこに有名なハンコの名店「長澤印店」がありました。
(写真は昭和31年当時の店舗外観及び店内を写したもので、国立国会図書館所蔵「商店建築」昭和32年3月号より転載しています)
近隣の省庁や大企業はもちろん、多くの政財界著名人をして、
「印鑑は長澤」
そう言わしめるほどの圧倒的な支持を得ていました。
長澤印店は戦後高度経済成長の到来と時を同じくして、当時の首相官邸から首相と官房長官の私印を受注するようになりました。
首班指名選挙が終わるとすぐに官邸から電話で新たな総理大臣と官房長官が使用する印鑑の注文が入ります。
今や遅しとその電話を待ち構えていた店側は、常時5人以上いた専属の印鑑職人の中からエース級の職人を指名し、彫刻を任せます。
首相の印鑑を彫刻する光栄に与った職人は、他の受注品製作をすべて中断して早速彫刻にとりかかり、限られた時間内で、まさに身を削るように精魂を傾けて彫刻します。
彫り上がった印鑑を首相官邸に納品するのは若手営業社員の役目、大切に包装された印鑑2点をカバンに収め、自転車で官邸に向かいます。
警備員やSPの何重にも及ぶ厳重なボディチェックを経てようやく入邸を許された若手店員は緊張をこらえつつ、事務長の机までお届けに上がります。
後に登場する、当時長澤印店で修業中だった山川 太嗣は4度官邸に納品しました。
そして彼の後輩である筆者も一度だけ、中曽根首相と藤波官房長官の印鑑を首相官邸に納品した経験があります。
(納品完了後、新内閣の記念写真が撮影される、赤い絨毯が敷き詰められたあの有名な階段をコッソリ上から見下ろしました)
続いては、6人の歴代首相の印鑑の彫刻を担当した、それぞれ作風の異なる、今や伝説となった3人の印鑑職人をご紹介します。
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